大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和34年(ヲ)1014号 決定 1960年1月22日

申立人 株式会社スポーツランド 外一名

相手方 株式会社協和銀行

主文

申立人両名の本件申立をいずれも却下する。

申立費用は申立人両名の負担とする。

事実

申立人等代理人は、申立の理由として、

「一、相手方(債権者)は昭和二五年五月四日申立人株式会社スポーツランド(債務者)に対し金七百万円を弁済期同年六月三〇日、損害金日歩五銭の約で貸付け、申立人六崎彰は右債権を担保するため同人所有の別紙目録記載の土地に抵当権を設定し、相手方はこれに基づき横浜地方裁判所に対し競売を申立て、同裁判所は同三四年(ケ)第六六号不動産任意競売事件として同年三月一〇日右物件につき不動産競売手続開始決定をした。

二、右債権は商事債権であるところ、相手方は右弁済期以降五年間右債権を行使せず、同三〇年六月三〇日の満了をもつて右債権の消滅時効が完成したから、ここにこれを援用する。

三、右消滅時効が中断した旨の相手方の主張事実は全部これを否認する。相手方主張の如き手形債務承認書をその主張の日時に申立人会社が相手方に交付したことはこれを認めるが、右債権を承認したものではない。

四、よつて右債権は右時効の援用により消滅し、右抵当権も消滅に帰したものであるから、右競売手続開始決定に対し異議を申立て相当の裁判を求める」

と述べ、

立証として乙第一号証、第二号証の一及び二を提出し、申立人会社代表者本人六崎市之介及び申立人本人六崎彰の各尋問を求め、甲号各証の成立を認めた。

相手方代理人は、申立人等の申立却下の裁判を求め、答弁として、

「一、申立人等主張の事実のうち第一項を認める。

二、右債権の消滅時効はつぎのとおり申立人会社の相手方に対する承認によつて中断され未だ完成していない。

イ、申立人会社は相手方に対し、

1 昭和二八年五月二八日右債務につき手形債務承認書なる書面を差入れ、かつ口頭で右債務を承認し、

2 同二八年六月二八日新会社を設立しその収益をもつて右債務を弁済する旨申入れ、

3 同二九年一月二九日右債権につき追担保を申入れ、

4 同三〇年六月一九日右債務につき手形債務承認書なる書面を差入れ、かつ口頭で右債務を承認した。

ロ、申立人会社代表者の代理人六崎彰は相手方に対し、

1 同三二年六月一〇日貸ビルを建設しその収益により右債務を弁済する旨申入れ、

2 同三三年一月九日右債権及び相手方の申立人会社に対するこれと別口の債権合計千五百万円を百二十万円で第三者に譲渡して貰いたい旨申入れ、

3 同年二月三日右千五百万円の債務に対し百万円程度の内入弁済をなすことにより申立外株式会社オデオン座所有の建物について相手方の有する抵当権を解除されたい旨申入れ、

4 同年二月二一日再び右3記載と同様の申入れをし、

5 同年二月二六日三百万円の内入弁済により右債権千五百万円につき全担保を解除されたい旨申入れた」

と述べ、

立証として甲第一乃至第七号証を提出し、証人村越靖三、渡辺正義、富田平作及び大木寅吉の、並びに申立人会社代表者本人六崎市之介及び申立人本人六崎彰の各尋問を求め、乙号各証の成立を認めた。

理由

申立人等主張の事実のうち第一項は当事者間に争がない。

右債権は商法第五二二条により昭和三〇年六月三〇日の満了をもつて時効消滅すべきものであることは明らかであるから、便宜先ず相手方主張の時効中断事由のうち、昭和三〇年六月一九日申立人会社は相手方に対し右債務を承認したとの主張について判断することとする。

申立人会社が相手方に対し右日時に手形債務承認書なる書面を交付したことは当事者間に争がなく、記録(同三四年(ケ)第六六号)及び成立に争のない甲第四号証によれば、申立人会社は右債権について借用証書を相手方に差入れたのみならず、右債権を担保するため借用と同時に相手方宛に約束手形を振出したこと、右手形債務承認書は右約束手形の記載事項を表示したもので、申立人会社においてその手形債務を承認する旨の記載あるものであることが認められる。しかして手形関係における直接当事者間においては手形は手段的のものであつて、手形関係と原因関係との間には実質的な経済的関連があるから、銀行が貸付をする際に、債務者から借用証書を徴すると共に又は徴する代りに、約束手形を徴した場合において、債務者がその手形上の債務を承認したと認めるべき事実があるときは、とくに留保した事情の認められない限り、原因関係上の債務も承認したものと解するのが相当である。(債務者は約束手形の返還をうけなければ原因関係上の債務の弁済を拒み得ると解すべきであるから、二重弁済の危険が存することを理由にかく解することを否定することはできない)。本件においてはとくに留保した事情を認めるべき何らの証左も存しないから、申立人会社は相手方に対し昭和三〇年六月一九日右手形債務承認書を差入れたことにより右手形債務を承認すると共に右債務を承認したものというべきである。従つてその余の時効中断事由について判断するまでもなく右債権の消滅時効は未だ完成しないものであるから、この完成を前提とする申立人等の本件申立は理由ないものとして却下すべきものである。

仮りにこの点をおくとしても、相手方の、昭和三〇年六月三〇日満了後に申立人会社代表者の代理人六崎彰が相手方に対し右債務を承認したとの主張は、時効の利益の放棄又は該放棄を含む債務承認の主張と解すべきところ、証人渡辺正義、同富田平作、同大木寅吉の各証言申立人本人六崎彰の尋問結果によれば、申立人会社の代理人六崎彰は相手方に対し、昭和三二年六月頃貸ビルを建設しその収益により右債務を弁済する旨申入れたのみならず、同三三年一月初めから二月末にかけて、右千五百万円の債務に対し百万円程度の内入弁済をなすことにより、右二ケの債権につき相手方の有する申立外株式会社オデオン座所有の建物に対する抵当権を解除して貰いたい旨再度にわかつて申入れたほか、三百万円位の内入弁済により右債権千五百万円につき相手方の有する抵当権全部を解除されたい旨申入れたことを認めるいができる。これに反する申立人会社代表者六崎市之介の尋問結果は措信しない。しかりとすれば申立人会社は右債権七百万円の消滅時効の完成後である昭和三二年六月頃及び同三二年一月初めから二月末にかけて四回にわたり、相手方に対し割賦弁済又は一部弁済の申入をなすことにより右債務を弁済すべき意思を明示したものというべく、その際に時効の利益を放棄しないことを留保した旨及び右時効完成を知らなかつた旨の主張立証は存しないから、右時効の利益を放棄したものというべきである。従つてその余の主張について判断するまでもなく、申立人等はあらためて右時効を援用し得ないのであるから、この援用を前提とする本件申立は理由ないものとして却下すべきものである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 広岡得一郎)

物件目録

横浜市中区曙町壱丁目参番

一、宅地百八拾坪六合

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例